振子車両とは?

 普通の人に「振子車両」と言っても、そのメカニズムについてはよく解らないと思うので、ここで簡単に説明します。

 鉄道フリークな方でよく解っている人は読み飛ばしてね(^^;
 つっこみ、揚げ足取りも歓迎します(笑)




端から見ても倒れそうなほど車体を傾けて走行する振子式車両

1.なぜ振子か?

2.制御付振子の仕組み

3.「振子気動車」の課題

4.8000系電車の新技術

5.空気ばね強制車体傾斜との相違

6.現状


7.振子式気動車開発秘話(半分宣伝w




1.なぜ振子か?


図(1)

図(2)

図(3)

 まず、多くの人が勘違いしているのだが、振子式というのは本来「カーブを高速で通過するための技術ではない」ことを知っていただきたい。

 カーブを通過する際に発生する遠心力の作用によって乗り心地が悪化するため、遠心力の作用を相殺することでカーブでの乗り心地の向上を図る技術」である。


 鉄道の曲線通過速度は、乗り心地を基準にして決められており、乗り心地を測る数値として、遠心力(超過遠心力)の作用による横Gの大きさが使われる。

 この横Gの大きさが一定値(通常は0.08G)以上にならないように、一定の安全余裕を見込んだ上で、曲線通過速度が設定されているわけである。

 つまり曲線通過速度を上げるためには、この横Gを小さくしてやればいいわけで、それを振子の作用によって相殺する(横Gを小さくする)ことによって乗り心地を向上を図るのが、振子式の本来の目的であり、曲線通過速度の向上はそれによって得られる結果に過ぎない。

 要するに振子式車両は他の車両に比べて、「同じ乗り心地で、より高速にカーブを通過できる」わけで、一般的にはこの「高速にカーブが通過できる」という点だけが振子式のメリットとして一人歩きし、それが振子式の目的であるかのように錯覚されているのである。

 特に振子式車両は効果的な振子作用を得るため、通常の車両よりも車高を低くするなど、低重心化が図られており、その意味では別に振子が無くても通常の車両よりもより高速でカーブを通過することができる。



 日本は山国で複雑な地形をしている。また四方を海に囲まれて複雑な海岸線を持つことでも知られている。
 そこを走る鉄道も、平野部を除けばその地形故にカーブや勾配が多く、普通の車両ではせっかく最高速度を上げてもカーブでは今までと同じ速度で走らざるを得ず、最高速度向上の効果はあまりないのが実状である。

 そこでカーブをより高い速度で走行することが出来れば、所要時分短縮の効果が得られるが、そこで問題になるのが遠心力による乗り心地の悪化である。

 通常カーブでは、列車が曲がりやすくするために外側のレールと内側のレールに高低差が設けられており、これを「カント」という。このカントはある一定の速度以下では効果を発揮し、速度を落とさずに安全にカーブが曲がれる(左図(1))。

 しかしある程度以上の速度では、車体にかかる遠心力の方が重力を上回り、超過遠心力がかることによって車体は外側に膨らみ(傾き)、乗り心地を大きく阻害する(左図(2))。
 だがカントが大きすぎれば、速度が低い場合には逆に車両が内側に転覆するおそれがあり、カントの大きさはその路線の実状に合わせて設定されている。JRの場合は他に特に定めがない限りは、狭軌在来線における最大カント量は105mm、標準軌の新幹線では180mmとなっている。

 では、カーブでの乗り心地をよくするためには、意図的に車体をカーブの内側に傾け、超過遠心力を相殺してやればよいことになる(左図(3))。

 一般的に振子車両は、その振子の効果を引き出すため(曲線での走行安定性を高めるため)に一般の車両より車体が低くなっており、また傾く車体が車両限界に抵触しないように、車体上下の絞り込みが大きいのが特徴である。


 以下に、通常の車両と一般的な振子車両の、曲線通過速度のおまかな違いを表にしてみた。

曲線半径  一般車   自然振子 制御付自然振子
200m50km/h65km/h70km/h
250 60  75  80  
300 65  80  85  
400 75  95  100  
500 85  105  110  
600 90  110  120  
700 95  115  125  
800 100  120  130  
1,000 105  |  |  
1,200 110  |  |  
1,400 115  |  |  
1,600 120  ↓  ↓  

 半径300mの曲線は地方の幹線には結構多く存在するし、600m程度なら幹線系でもごろごろある。

 例えば、線区(列車)の最高速度が120km/hで半径600mのカーブを通過する場合、一般の車両では通過速度が90キロに制限されるが、自然振子車なら110キロでOK、制御付振子車なら120キロ(つまり速度制限無し)で通過できるわけである。



 以上のような発想に基づき、1973年に中央本線特急「しなの」に登場したのが381系電車である。
 当時はまだ制御振子の技術が確立しておらず、車体の傾斜は遠心力の力のみを利用(自然振子)していた。
 そのため、曲線に進入した際の急激な揺れと、曲線を出たあとの「揺れ戻し」の問題が残り、これを改善すべく制御付振子の開発が進められることになった(以下次項)。





 蛇足であるが、「振子式の方がカーブで安定する」というのも、よく見受けられる大変な誤解である。

 通常振子式車両は、振子が動作しやすいように車両重心よりも振子中心を上に設定している。

 振子が作用すると、車体の重心が通常よりも外側に移動することになり、力学的に見た場合のカーブでの挙動は、振子式車両の方が通常の車両よりも不安定となる。
 また、通過速度が上がると言うことは車両にかかる遠心力そのものはその分大きくなるわけであり、早い話、振子式車両の方が通常の車両よりもカーブでは脱線しやすいのである。それでも脱線しないのは、もともとの曲線通過速度が、実際の脱線速度よりも遙かに低く設定されているためである。

 さらに言えば曲線通過速度が上がる分、車輪にかかる力、すなわち車輪がレールを外に押そうとする力は増えるわけであり、軌道に与える負担も大きくなることから、(振子を使用する前提で)振子式車両が導入された路線では、特に曲線区間での線路改良(強化)工事が必ず実施されている。
 逆に言えば、軌道側を強化しなければ振子式車両の性能を発揮できないわけであり、実際に、振子式車両が走行する路線であっても曲線改良が行われていない区間では、振子を止めて通常の車両と同じ速度で走行している(山口線・因美線など)。

 四国でも振子式車両の導入当初は、直線区間はバラストも控え目で木製枕木である一方、曲線区間は分厚いバラストにPC(コンクリート)枕木という状況も多かった。


 なお、脱線しにくくする(脱線係数を低くする)台車側の技術のひとつが、「操舵台車(ラジアル台車)」である。
 実際、これを搭載しているJR東海383系やJR北海道キハ283系では、曲線通過速度のさらなる向上が可能となった。



※この、振子中心に対する車両重心の動きが振子に似ているのが「振子式」の名称の由来である。



ページのトップへ





2.制御付振子の仕組み


 制御付振子車については、既に国鉄時代の1984年から85年にかけていくつか試験が行われていた。

 当時紀勢本線特急「くろしお」に使用していた381系電車を使用して制御付の振子台車に改造し、湖西線で試験運転を実施。ただし、このときは高速試験がメインで、制御付振子はカーブでもなるべく速度を落とさないようにするための補助的システムとして組み込まれていた。
 1984年6月23日から7月10日までのテストでは、381系は169km/hを記録し、翌1985年には台車の軽量化と振子制御の改良を行った上で再トライ、11月26日に179.5km/hという在来線最高速度記録を達成。

 ※当時の新聞記事:「出た!179.5km/h 在来線の最高記録」

 この記録は振子式車両だから出せたのではなく、通常の車両でも相応の直線区間があれば出せるレベルの物であり、要はこの記録は途中に介在する曲線区間での減速を最小限に抑えることで達成できた記録であった。


 このときに採用され、その後の技術のベースとなった「制御付」振子とは、文字通り振子の動作をコンピューターなどによって制御するモノで、簡単に言えばあらかじめ曲線が始まる手前から徐々に車体を傾斜させ、曲線が終わる時に徐々に車体の傾きを戻すもので、「制御付自然振子」と呼ばれる。

 この日本方式の制御付自然振子は、車体の傾斜はあくまで遠心力を基本にして、システム自体はその車体傾斜の補助的役割をするモノであり、車体を曲線の反対向きに傾けるだけの力は無い。現在の日本国内の「制御付振子」は全てこの方式である。
 これはフェイルセーフを考えたモノであり、万が一振子制御装置が誤動作を起こして、本来傾けなければならない方向と逆向きに車体を傾けてしまった場合でも、自然振子によって正しい方向に向け直すことが出来るようになっている。
 また装置自体の小型化によりコストを抑えるという狙いもある。


 これに対して欧州で多用されているシステムは「制御付き強制車体傾斜方式」と呼ばれ、先頭車両でカーブを検知すると、2両目以降の車両に対して車体傾斜の指令が出され、油圧シリンダやリンク機構を使用して車体を強制的に「ゆっくりと」傾けるタイプであり、複雑なプログラミングなどを必要としない代わりに、特に先頭車両では若干の振り遅れによる乗り心地の悪化に目をつぶる必要がある。


 つまり、カーブをあらかじめ予測して車体を傾斜させる日本方式に対して、欧州方式はカーブを検知してから車体を傾斜させるという決定的な違いがあるわけである。

 欧州に比べてコンピュータの技術が発達していた日本では、より良好な乗り心地が得られるため、この方式を採用している。また、欧州の高速列車は編成の前後が動力車(機関車)となっている列車が多く、先頭車両での若干の乗り心地の悪化が許容されていたという事情もある。

 以下では日本方式の「制御付自然振子」について話を進める。






 さてその動作原理だが、簡単に言うと、上図のように列車がATS地上子の上を通過すると、列車に搭載された車上子がそれを検知し、列車の現在位置を算出する。

 そしてそれに基づいて、予めROM装置に記憶されている次の曲線までの位置を演算して割り出し、曲線が近づいてきたら緩和曲線に入る50m手前から振子指令装置(CC装置)が振子制御装置(TC装置)に指令を出し、それを受けてTC装置はχm手前から車体を傾斜させ始め、緩和曲線出口手前ymになると、先頭の車両から順に時間をずらして車体を戻し始めるわけである。



↓中央本線特急「ワイドビューしなの(383系)」の例
 直線走行状態
 先頭車両が緩和曲線入口にさしかかり、振子指令により傾斜を開始。
 先頭車両はさらに大きく傾斜。さらに2両目が時間をずらして傾斜を開始。
 3両目はまだ直線走行状態で、1〜3両目がそれぞれ異なる角度で傾斜している。



N2000系の「うずしお」
4両全てがそれぞれ異なる角度で傾いているのが判る

予讃線 鬼無〜端岡間
1998年9月16日


塩入駅に進入する2700系の「南風14号」
2000系よりもさらに洗練された振子制御で、見事な「順次傾斜」を見ることが出来る

土讃線 塩入駅
2019年10月7日




 位置情報の算出には、先に述べたようにATS地上子を基準にしているが、ATS車上子からのこの情報を基に、車輪の回転数から走行距離を演算し、曲線入口を検知している。この場合、累積誤差を極力少なくするため、ATS地上子を通過する毎に演算値をクリア(0に戻す)している。また、車輪が滑走(空転)する場合があるので、その誤差をなくすために複数の速度発電機を使用し、回転数の多い方の数値を優先するようになっている。

 これら、曲線の大きさ・長さ・向き・カント量の情報は、その曲線番号(全ての曲線に各々番号が付与されている)とともに走行開始前に設定スイッチの操作によって予めCC装置からTC装置に電送され、TC装置にも記憶される。


 走行中は、基準となるATS地上子を検知すると、CC装置は先に述べた方法で曲線入口手前50mの位置を演算し、編成の先頭車両から順次時間をずらして(どの程度ずらすかは、その時の列車の速度から演算される)各車に搭載されたTC装置に振子司令を伝送(曲線番号・車両番号)する。

 各TC装置は、予めメモリーされている次の曲線のデータに、現在の列車の走行速度を加味した上で所定の制御指令を演算し、曲線手前χmに近づくと、台車に搭載された振子シリンダの制御装置に指令を出し、車体を傾斜させる。

 その後円曲線出口ymの位置を算出し、今度は車体傾斜を引き戻す。

 各台車に取り付けられた振子角度変位計からは、車体の傾斜角度の情報が約50ミリ秒(1ミリ秒は1秒の1/100)毎にTC装置にフィードバックされ、列車の現在速度の変化に合わせて傾斜角度が修正される仕組みになっている。


 これら地上側の情報(曲線情報やATS地上子の位置情報)は、実際に試験走行を行って、そこから得られた実測値が入力されている。
 地上設備はしばしば変更され(特にATS地上子の移設)、その度に実測値を測定し直してはデータを入力し直すという作業が必要になる。


 ちなみにこの振子制御は、2000系気動車の場合は列車の速度が50km/h以上で尚かつ曲線半径が1200m以内の場合のみ作用するようになっており、それ以外(列車の速度が30キロ程度の場合など)では台車に取り付けられた振子抑止シリンダによって振子をロック(振子が動作しないように)し、不用意な車体の動揺で乗り心地が悪化するのを防止している。



 山間部を走行する土讃線の場合、次から次へと曲線が連続するようなところを90キロ以上もの高速で走行するために、現代のコンピューター技術をもってしても演算が追いつかず、CC装置が列車位置を見失ってしまう場合がままある。
 その筋ではこれを「振子が飛ぶ」と言うが、私も実際に何度か経験があり、直線区間を走っているのに車体が傾いたまま。という場面に出くわしたこともあった。しかしこれも、プログラムの改良などによって最近ではほとんど無くなったようである。


 と、電車であればここまでの話で済むのであるが、「気動車」にはまだクリアしなければならない問題がいくつかあり、それが、2000系以前に「振子気動車」が実用化に至らなかった最大の要因でもある。


ページのトップへ





3.「振子気動車」の課題


 かつて、「気動車の振子はできない」というのが、鉄道界の常識であった。しかしながら常識というのは時代と共に変わるものであり、また変えていくべきものである。
 初めてその常識を変えることにチャレンジしたJR四国とJR総研はどのような課題にぶつかったのか? それを以下に記す。



 左図が、エンジンを2台搭載した液体式気動車の一般的な動力伝達図である。見てもらえば解るが、その構成は自動車とほぼ同じである。
 エンジンから変速機を通した出力が動力推進軸(ドライブシャフト)を介して減速機から車輪に回転力として伝わる。

 ここで、エンジンが1台しかない場合、車体に取り付けられたエンジンの回転力の反力(「反トルク」という)によって振子作用が打ち消されてしまい、自然振子が動作しなくなってしまう。

 そのためにエンジンを2台搭載し、それらの推進軸の回転方向を互いに逆向きにし、反トルク同士でその力を相殺してやることによって、これを解決している。
 実際に、現存する振子式気動車は、例外なく全車両がエンジンを2台搭載している。



 次に、推進軸の問題がある。

 振子式ではカーブにさしかかった場合、車体が大きく傾くため、車体に取り付けられたエンジンと、台車に付いている車輪との間を結んでいる推進軸には「ねじれ」る力が加わるため、これもクリアしなければならない問題であった。



 さらに鉄道車両の場合は、左図のように曲線通過時に台車は曲線に沿って曲がる(向きを変える)が、エンジンは車体に付いたままなので今度は「曲がる(「よじれる」とするべきか?)」力と「伸縮する」力が推進軸に対して加わる。




 つまり、「ねじれ」て「曲が(よじれ)」って尚かつ「伸縮」し、その上大出力に耐えうる推進軸系統が必要だったわけである。これの開発・確認のため、1988年5月からJR総研に於いて急行形気動車(キハ58形)を改造しての試験が繰り返された。





 実は、振子気動車「のようなもの」自体は過去に於いて存在したことがあった。下のイラストの車両がそれで、「キハ391系」と呼ばれていた。



 この車両は1972年に製造されたが、当時は振子気動車用の推進軸を開発する技術が無く、前後の2両はエンジンを持たない付随車(トレーラー)でこの車両の台車のみが振子式となっており、中央の車両には航空機用のガスタービンエンジンが駆動用エンジンとして搭載されていたが、その台車は振子構造になっておらず、その点では厳密な意味での振子式車両ではなかった。

 この車両は中央本線や伯備線などで試運転が行われたが、騒音の大きいガスタービンエンジンを搭載していたことに加えて燃費が悪かったため、折からの石油ショックによって、結局日の目を見ずに終わった。



 こうして開発された「世界初の振子式気動車」2000系は89年3月改正で試作車が試運転を兼ねた営業運転を開始、90年11月のダイヤ改正で量産車が登場。

 当時のダイヤ改正のポスターには「四国のアクセスタイムを変えます」というキャッチコピーとともに、それまで約3時間かかっていた岡山〜松山・高知間が、岡山〜松山間で最速2時間29分、岡山〜高知間で同2時間18分に短縮される事実が誇らしげに記載されていた。

当時のポスター(一部拡大)

 率にして20〜30%という驚異的なスピードアップであり、特に岡山〜高知間2時間18分などというのは、国鉄時代から考えれば、夢のような速さであった。

 実際私もその時のダイヤ改正の時刻表を見て、「本当にそんなスピードで走れるのか?」と思ったものである(^^;



 蛇足であるが、気動車でも液体変速機と推進軸を使用しない電気式であれば、推進軸の反トルクの問題は発生しないのは言うまでもない。
 また液体式であっても、その反トルクが振子作用に与える影響は、(多少は影響するが)実用上の不具合はないレベルであることが、その後のJR総研での試験により実証されている



ページのトップへ




4.8000系電車の新技術


 JR四国では、2000系気動車をベースにした振子式特急電車8000系を開発。ここでは、レールブレーキとパンタグラフ制御装置について触れる。


<レールブレーキ>

 日本のJR在来線(新幹線以外の既存の路線)を走る列車の最高速度は120〜130km/h止まりである。車両性能から見ればもっと高い速度は出せるのに何故この速度で止められているのか?

 その理由は、信号や踏切などの保安設備(以下「地上設備」と言う)と関係している。
 かつて在来線では列車が非常ブレーキをかけてから停止するまでの距離は600m以内と規定されており、在来線の地上設備はこれを基準に設置・設定されていた。
 そのため、極端な話だが、時速180キロ以上出せるような高性能車両でも、非常ブレーキをかけて600m以内の距離で停止できる速度が例えば時速90キロなら、在来線上ではその速度までしか出すことが許されないのである。

 このような、その車両に対して規定上出すことが許されている最高速度のことを「許容最高速度」と言う。鉄道車両の「最高速度」と言えば一般的にはこの「許容最高速度」のことを指している。

 鉄道ではこの他に、各路線毎に各々の路線の路盤の強弱や地上設備の整備状況などによって線区ごと・区間ごとに最高速度が決められており、自動車でいう「道路の制限速度」に相当するモノがあるが、ここでは割愛する。

 なお、この「600m規定」は現在は廃止されているが、規定廃止後に建設された路線はともかく、それ以前に作られた路線では、廃止されたからと言って全ての信号設備を作り直すわけにもいかないため、規定廃止後も規定の「縛り」を受けて現在に至っている。


 最近の車両(特に特急用車両)は、いわゆるアンチロックブレーキを装備しているものが多く、また性能的にも130km/h超での走行が可能なものが一般的である。
 しかしそれ以上の速度では通常のブレーキ(車輪とレールの摩擦力によるブレーキなので一般に粘着ブレーキという)では規定内の距離で停止することは難しいとされている。

 だが、地上設備の改良には莫大な資金が必要で、最高速度向上のためには、車両側の改良に頼るかいっそのこと線路を引き直すしか方法がないのが現状である。


 そこで1992年に登場した8000系試作車に試験的に搭載されたのがレールブレーキである。

 これは、台車に電磁石を取り付け、非常の場合はこれをレールに吸着させてブレーキ力とするモノで、92年7月にJR四国が予讃線で行った試験では、150km/hの速度からでも600m以内で停止できることが確認されている。

 このブレーキ、残念ながら量産車では採用されなかったが、今後の実用化に期待できるかも知れない。



<パンタグラフ制御装置>

 パンタグラフとは屋根上に搭載された集電装置のことで、特に架線から電気を取り込んで動力とする電気車には基本的に不可欠のモノであり、車体の屋根上に取り付けられた菱形又はアーム形、及びそれに類する形状の物である。


 上で既に述べたように、振子車両はカーブで車体を傾けることによって、曲線通過時の乗り心地を改善しスピードアップを図ろうというモノであるが、ここで問題となってくるのは大きく傾く車体に取り付けられているパンタグラフと架線との位置関係である。

 パンタグラフは車体の動揺に合わせて大きく左右に移動するが、架線の位置は変わらないため、パンタグラフと架線が離反する可能性が無いとも言い切れないし、離反はしなくても集電不良に陥る可能性はあるわけである。
 そこでパンタグラフを車体の傾斜に関わりなく常に一定の位置に保持するために同装置が開発された。


 なお、架線の張架方法を振子式車両に対応したものにすることも可能であり、中央本線・名古屋〜塩尻間、伯備線・倉敷〜伯耆大山間、山陰本線・伯耆大山〜知井宮間、紀勢本線・和歌山〜新宮間などは、当初から振子式車両が走ることを前提として電化されたため、その方法が採られている。
 そのため、これらの区間を走行する特急「しなの」「くろしお」「やくも」に使用される、JR東海383系とJR西日本283系は、パンタグラフ制御装置を搭載していない。


 四国の場合、既存の電化区間を走行することが多く、また新規電化区間に於いてもトンネルの断面が小さい為に架線張架時の自由度が低いことなどから、採用となったものである。

 8000系に採用されたパンタグラフ制御装置は「ワイヤ固定式」で、パンタグラフの載っている基台を、屋根上を円弧状に左右に移動できるようにしたレールの上に載せ、その基台をワイヤーロープによって台車に固定する仕掛けになっている。
 ワイヤーロープは断線に備えて2本とし、それでも2本とも断線してしまった場合は、フェイルセーフが機能してパンタグラフが強制的に折り畳まれ、同時に自動的に非常ブレーキがかかって列車が止まるようになっている。

 8000系量産車がデビューしてしばらくこのワイヤーロープの断線が何件か発生したため、装置に若干の改良が加えられているようである。

 また、8000系以降に登場した振子式電車(E351系、883系、885系)では、ワイヤーロープの断線を避けるために台車からアームを立ち上げて基台を固定する「剛体固定式」を採用している。
 このタイプだと断線の心配は無くなるが、台車とパンタグラフを繋ぐアームを通すためのスペースが車体側に必要となり、その分客室面積が削られるほか、重量も重くなるというデメリットがあり、要はどちらも一長一短である。


ワイヤ固定式

JR四国8000系/8600系
剛体固定式

JR九州883/885系、JR東日本E351系

JR四国8000系のパンタグラフと、
台車側のワイヤ固定部位

JR九州883系(1000番台)のパンタグラフと、
台車とパンタグラフ固定装置のリンク部分



曲線通過中の8000系のパンタグラフ

なお、パンタグラフの撤去された8500形については
パンタ基台は固定されて動かないようになっている
(制御用のワイヤーも撤去されている)



 なお、2014年から営業運転を始めた8600系についても、車体の傾斜方式は異なるが車体が傾斜することに変わりはないことから、8000系と同様のワイヤ固定式のパンタグラフ制御装置を搭載しているが、台車への取付方法に工夫が凝らされ、制御用ワイヤの長寿命化を図っている。

 さらに蛇足であるが、剛体支持方式を採用した振子式E351系の後継として投入された、空気バネ車体傾斜式のE353系は傾斜角が1.5度とごくわずかなため、パンタグラフ制御装置を搭載していない。



8600系の固定部位

 恐らくは、ワイヤにかかる負荷を減らすために、曲線通過時の台車の「首振り」の影響を受けない構造にしているものと思われる。




 ちなみに8000系電車開発に着手した時点で、海外では既に剛体支持方式(の類似の)方式による車体傾斜車両が既に実用化されていたが、上記のように重量がかさむこととデッドスペースが出来ることを避けて、JR四国ではワイヤ固定式を新たに開発したと、開発陣が明言している(出典:「振子気動車にかけた男たち」:本項末<振子式気動車開発秘話>参照)。


ページのトップへ




5.空気ばね式強制車体傾斜との相違


 1989年のJR四国・2000系気動車の登場以来、一時的に三島会社(JR北海道・四国・九州)を中心に全国に波及した制御付振子であるが、台車などの走行装置の構造が複雑になるため、メンテナンスに手間とコストがかかることから、折からの景気後退とも相まってよりランニングコストの低い空気ばねを使用した車体傾斜方式が、2000年頃から普及するようになった。

 これは、乗り心地の改善を目的として従前から実用化されていたアクティブサスペンションをベースに、空気ばねを強化して車体傾斜機能を持たせたものである。


 動作原理は至極簡単で、曲線区間では曲線内側の空気バネを縮め、外側の空気バネを伸ばすことで車体傾斜を行っている。
 対して振子式は、ころまたは曲線ガイドレールに沿って、車体が台車の上で転がるイメージ。

 従って空気ばね強制車体傾斜式は、その構造上傾斜角度をあまり大きく取ることが出来ないため、振子式の5〜6度に対して1〜3度程度と控えめである。


 また、このような動作原理の相違から車両限界との関係で、空気ばね強制車体傾斜式は通常の車両と比較すると、車体上部について少し絞る程度で済むのに対し、振子式は裾部についても大きく絞る必要があるのも相違点となっている。


振子式

※図はころ式の場合で、ベアリングガイド式も車体の動作自体は同じ
空気ばね強制車体傾斜式

※曲線内側のばねは縮めない場合も多い


車体断面の比較
一般車
(キハ185系キハ185形)
振子式車両
(2000系2150形)
空気ばね車体傾斜式車両
(8600系8750形)
 幅広車体なので裾が絞られているが、側面は垂直となっている。 一般車比で上下とも絞られているのが判る。  振子式車両に比べると、裾の絞りが小さいのが判る。
 ホームとの隙間の違いに注目。




 以下に、振子式と比較した長短を簡単に記す。

振子式空気ばね強制車体傾斜式
台車の構造× 複雑○ 通常の空気ばね台車とほぼ同じ
メンテナンス× オーバーホール等に手間とコストがかかる○ 通常の空気ばね台車とあまり差がない
傾斜角○ 大きく取れる(5〜6度以上)× あまり大きくできない(3度程度まで)
速度向上○ 最大40km/h以上の向上も可能 × 振子式に比べると若干劣る
 (特に小半径曲線での効果が小さい)
車体断面× 車両限界に抵触しないよう、上下とも絞る必要がある△ 振子式ほどではないが、上部を一般車両より若干絞る必要がある


 台車の構造だけでなく、車体断面にも違いが出るほどの差異があるもので、根本的に全く異なる技術であると考えるべきである。


 これは、一概にどちらが優れている・劣っていると論じる類の物ではなく、コストと時間短縮効果のバランス、および使用する路線や列車の性格等を考慮しつつ、個々に判断するべきである(と私は)思う。

 つまり、多少コストがかかっても時間短縮を図る意義があるのであれば振子式にすればいいし、そこまで必要がなければ空気ばね車体傾斜方式でも良いと思われる。


 結局試験車両として使われることになって営業車両として日の目を見ることはなくなった、JR北海道が開発していたキハ285系は、振子式と空気ばね強制車体傾斜のハイブリッド式であったが、個人的には比較的線形に恵まれた北海道でそこまでする必要があったのかと、少々疑問に感じる・・・・と、これは閑話休題。


 いずれにせよ、景気の低迷と阪神淡路大震災以降の余裕時分の見直し等により、近年では振子式の導入を見送って空気ばね強制車体傾斜方式を導入する事例が増えている。

 また、空気ばね強制車体傾斜は比較的低コストで導入できるため、JR北海道のように普通列車用車両への導入例もある。



〜傾斜機構の差による速度差と、空気バネ車体傾斜の限界〜

 以上のように、空気ばねのみを使用した車体傾斜の場合は通常の振子式に比べて傾斜角度が小さくなるため、1.で触れた乗り心地との関係で言うと、通常は同じ曲線でも振子式よりも空気ばね車体傾斜式の方が通過速度が低くなる。

 実際JR北海道のキハ281系とキハ261系を比較した場合、曲線通過速度は前者が最大で本則+30km/h(設計上は+40km/h)なのに対して、後者は+25km/hにとどまっていた。


 JR四国では、空気ばね車体傾斜式の8600系電車が2000系や8000系と同様に最大で本則+30km/hで走行し、2017年に登場した2600系気動車も同様の設計であるが、これは予め組み込まれている余裕分を削ることで実現しており、「1.なぜ振子か?」で述べたように通常は0.08G以下と規定されている曲線通過時の超過遠心力を、8600系(および2600系)の場合は0.1Gまで許容することで、8000系や2000系と同等の速度を実現している。

 実際に8600系や2600系は、8000系や2000系に比べて曲線での揺れが激しいという指摘も多く、個人的にもそう感じている。
 特に、カーブ通過中に唐突に腰のあたり(の高さ)をカーブ外側に持って行かれるような振動を8600系&2600系共に何度も体感(同じ場所でも8000系&2000系では何ともない)しており、空気ばね車体傾斜方式の限界が見て取れるように思える。


 さらに、車体傾斜に圧縮空気を使用する空気バネ車体傾斜方式の場合は、大量に消費する圧縮空気の確保が問題となる。
 鉄道車両では摩擦ブレーキやドア開閉などにも圧縮空気を使用しており、それらに使用する分も確保しなければならい。

 JR四国が2000系後継として開発した2600系でも、屋根上に空気タンクを搭載するなどの対策を行ったが、それでも土讃線での試運転では圧縮空気の不足に悩まされ、同線への導入を断念して振子式の2700系を新たに開発しており、はからずも空気バネ車体傾斜方式の限界を露呈した形となった。



ページのトップへ




6.現状

 ここでは、国鉄時代に登場した「自然振子車」381系については除外していることをお断りしておく。

 1989年3月に登場したJR四国2000系の(大)成功を見てとると、他のJR各社などもこぞって制御付振子車の開発に乗り出し、現在JR旅客全6社と第三セクター会社2社に合わせて11系列(気動車5系列/電車6系列)が在籍している。
 参考までに、強制車体傾斜方式の車両と合わせて、時系列順で登場時期を一覧にしてみた。


年月制御付振子方式空気ばね式強制車体傾斜方式
1989年 3月11日 JR四国 2000系気動車TSE
 季節列車で営業運転開始 「南風」「しまんと」

1990年11月21日 JR四国 2000系気動車量産車
 本格営業運転開始 「南風」「しおかぜ」

1992年 7月23日 JR四国 8000系電車試作車
 季節列車で営業運転開始 「しおかぜ」「いしづち」

1993年 3月18日 JR四国 8000系電車量産車
 本格営業運転開始 「しおかぜ」「いしづち」
※この時点で、予讃線・土讃線の定期特急列車は全て振子車に。

1993年12月23日 JR東日本 E351系電車先行量産車
 営業運転開始 「スーパーあずさ

1994年 3月 1日 JR北海道 キハ281系気動車
 営業運転開始 「スーパー北斗」

1994年12月 3日 JR東海 383系電車先行量産車
 季節列車で試験を兼ねた営業運転開始 「しなの」
 ラジアル駆動式操舵台車装備

智頭急行鉄道 HOT7000系
 営業運転開始 「スーパーはくと」
JR東日本 E351系電車量産車
 営業運転開始 「スーパーあずさ」
1995年 4月20日 JR九州 883系電車
 営業運転開始 「ソニックにちりん」

1995年11月 JR北海道 キハ283系気動車試作車
 各種試験開始
 リンク式操舵台車装備

1996年 7月31日 JR西日本 283系電車先行量産車
 試験を兼ねた営業運転開始 「スーパーくろしお」

1996年12月 JR東海 383系電車量産車
 本格営業運転開始 「ワイドビューしなの」

1997年 3月22日 JR北海道 キハ283系量産車
 営業運転開始 「スーパーおおぞら」「スーパー北斗
JR北海道 キハ201系
 営業運転開始
JR西日本 283系量産車
 営業運転開始 「オーシャンロー」
1999年
名古屋鉄道 1600系
 営業運転開始
2000年 3月11日 JR九州 885系
 営業運転開始 「かもめ」
JR北海道 キハ261系
 営業運転開始 「スーパー宗谷」
2001年 7月 7日 JR西日本 キハ187系
 「スーパーおき」「スーパーくにびき」

2005年 1月29日
名古屋鉄道 2000系
 営業運転開始 「ミュースカイ」
2005年 3月19日
小田急電鉄 50000系VSE
 営業運転開始
2007年 7月 1日
JR東海/JR西日本 N700系
 営業運転開始
2011年 3月 5日
JR東日本 E5系量産車
 営業運転開始
2013年 2月 8日
JR東海/JR西日本 N700A系
 営業運転開始
2013年 3月16日
JR東日本 E6系量産車
 営業運転開始 「スーパーこまち」
2014年 6月23日
JR四国 8600系先行量産車
 営業運転開始 「いしづち」
2015年
JR東日本 E353系先行量産車
 夏期以降営業運転開始予定
 → 2018年度にE351系の置き換え完了
2017年 8月11日
JR四国 2600系気動車
 営業運転開始(臨時)
 (定期運用開始は同年12月2日)
2017年 9月25日 JR四国
 同日のプレスで、2000系の後継として2600系を量産することを断念し、在来方式の振子式車両の開発を行うことを発表。

2018年12月 JR四国 2700系気動車
 先行試作車が落成し、四国へ甲種輸送。

2019年3月JR東日本 E351系全廃
2019年9月28日 JR四国 2700系気動車
 定期営業運転開始
 「南風」「しまんと」「あしずり」「うずしお」
※不定期営業運転は9月8日開始




 制御付振子式車両に関する技術的な動向としては、既述のようにJR四国8000系ではワイヤーロープによるパンタグラフ制御装置が実用化されたほか、同系の試作車ではレールブレーキが試用され、コロ式に代わるベアリングガイド式の振子装置も試みられたが、これらは試験的要素が強く、量産車では採用されなかった。

 JR北海道キハ281系では試作車ではコロ式だったのが量産車ではベアリングガイド式になっている。これは冬季の着雪による振子の動作不良を懸念してのことである。

 JR東海383系では曲線に沿って車軸が傾く「操舵台車」が採用された。試験結果が良好だったため、量産車にも採用された。

 智頭急行HOT7000系は特に目新しい新技術は採用せず、運転台の機器配置までJR四国2000系を模倣しており、手堅くまとめている。

 JR東日本E351系では、JR四国8000系とは異なるパンタグラフ支持方法を採用している。これは、8000系では運転開始当初、ワイヤーロープが断線して走行不能になる(ワイヤーが切れると、自動的にパンタグラフが折り畳まれるため)トラブルが発生したためにそれを防ぐのが目的のようだが、重量が重くなるのが難点である。
 ただこの車両は振子の動作不良が多発しており、「欠陥車両」との風評も聞かれる。

 JR九州883系は、技術的には手堅くまとめ、内外装デザインに凝った車両である(個人的にはあの内装は嫌いだ)。パンタグラフ支持装置は、JR東日本E351系とほぼ同じものが採用された。

 JR北海道キハ283系は、キハ281系をベースにして、JR東海383系とは異なるリンク機構を使った操舵台車を組み込んでおり、約1年間の試験の後、1997年3月のダイヤ改正でデビューした。
 また同車は直結4段式の液体変速機が搭載された(それまでは直結2段)。

 JR旅客会社の中では最後となったJR西日本では、96年7月31日から283系「オーシャンアロー」を紀勢本線に投入して営業運転を開始。当初、車両数の関係から点検日は従来型の車両を使用していたが、97年のダイヤ改正から本格的な営業運転に入った。

 2000年3月改正で、JR九州に2つ目の振子車として885系が「かもめ」として登場した。基本構造は883系を踏襲している。

 2001年7月改正では、JR西日本キハ187系が登場。近代化から完全に取り残されていた、山陰線西部の改善が行われた。


 これら全系列の比較表なども作成しており、掲載も可能であるが、ここでは2000系と8000系の紹介が目的なので他系列についてはそのメカニズムの解説も含めて、詳細は割愛させていただく。



 なお、空気ばね式強制車体傾斜方式の車両については、連接構造となる小田急50000系VSEが高位置空気ばねにより通常よりも高い位置で車体傾斜を行うなどの独特の技術を採用している以外は、基本構造や基本的な動作原理は全て同じで、車体周辺構造などについても特に目新しい技術などは無い。



2020年4月1日現在の各社の制御付振子車の保有状況は以下の通り。
2008年末から2017年度末までの間は変動がなかったが、E351系が2018年度に全廃となったことからJR東日本から振子式車両が消滅した。

JR北海道JR東日本JR東海JR西日本JR四国JR九州智頭急行 土佐
くろしお
鉄道
在籍両数累計製造両数
キハ187系262626
キハ281系272727
キハ283系353554
2000系586280
2700系161616
HOT7000系262626
E351系60
283系181818
383系767676
883系565658
885系666669
8000系454545
合計62764411912226453545



 本州の3社よりも、北海道・四国・九州のいわゆる三島会社が制御付振子車の導入に熱心である。
 曲線半径などの線路条件が本州の幹線に比べて厳しいという事情も一部にはあるが、他の交通機関との競争に伴うスピードアップに対して、本州3社よりも強い危機感を抱いているということなのであろう。
 事実、現在在籍する制御付振子車のうちの約2/3を、三島会社が保有している。


 特にJR四国においては在籍車両のうちの約3割が振子車である。また、系列別でも2017年までは四国の2000系が最多であった(総製造両数では現在でも2000系が最多である:80両)。

 JR西日本はどうもいまいち乗り気でないようで、2003年度のキハ187系増備も地元自治体に100%資金を供出させている。
 また283系を投入した紀勢本線には、非振子式の287系や289系を投入しているばかりでなく、283系も2023年現在は振子装置を不使用として運用されている。

 JR東日本もE351系の失敗で懲りたのか、その後は音沙汰無しで、E351系の後継車種には空気バネ車体傾斜式のE353系の導入し、2018年度を持って置き換えが完了して、同社の振子式車両の保有数はゼロとなった。

 JR四国は予讃線のアンパンマン2000系の置き換えとしては空気バネ車体傾斜の8600系を導入した。
 その一方で、土讃線の「南風」系統の置き換えを目的として試作した空気バネ車体傾斜式の2600系気動車が所期の目的を達成できず、土讃線系統には振子式気動車として2700系の導入を決定するなど、空気バネ車体傾斜の限界が露呈するとともに、従来より私が予見していたとおり一定の棲み分けが進みつつある。
 一方で制御付振子のパイオニアである2000系は、初期の車両を中心に廃車が始まっている。

 その2000系後継の2700系では、振子制御がさらに洗練されて、連続S字カーブですら車体傾斜をほぼ意識させないほどのスムーズで快適な乗り心地を実現している。

 四国と並ぶ振子大国のJR九州は、新幹線開業の影響もあって885系以降の新系列が途絶えているが、当面新幹線の予定がない区間に残る振子車両の後継車種をどうするのか、注目される。


ページのトップへ





7.振子式気動車開発秘話

 ここからは蛇足というか半分宣伝となりますが、福原俊一氏の著編による2000系振子式気動車開発に関する秘話をまとめた本が発刊されています。


【振子気動車に懸けた男たち】
(2016年 交通新聞社新書)
福原 俊一氏著


 2000系気動車の開発秘話をまとめたもので、他にも8000系導入の経緯やその後の改良、またそれにかかる予讃線電化工事に際しての苦労など、サイズの割に割高ですが、開発に関わった社員の方などの話が沢山盛り込まれ、私でもあまり読み飛ばす部分が無いぐらい充実した内容となっています。
 帯の写真その他数点ほど私が撮影したもので、他にも当方が提供した小ネタもいくつか掲載されています。

 巻末付録は形式図と93年3月改正当時の運用表も資料性の高いものです。


 技術面の詳細な解説等はほとんどありませんが、振子気動車開発をはじめとした四国内の高速化にかかる関係者の努力の軌跡がよく解る読み物となっています。


ページのトップへ




参考文献

 鉄道ジャーナル社刊「鉄道ジャーナル」
 交友社刊「鉄道ファン」
 電気車研究会刊「鉄道ピクトリアル」
関係各号
その他多数