振子車両とは?
普通の人に「振子車両」と言っても、そのメカニズムについてはよく解らないと思うので、ここで簡単に説明します。
鉄道フリークな方でよく解っている人は読み飛ばしてね(^^;
つっこみ、揚げ足取りも歓迎します(笑)

1.なぜ振子か?
2.制御付振子の仕組み
3.「振子気動車」の課題
4.8000系電車の新技術
5.振子車の現状
1.なぜ振子か?

日本は山国で複雑な地形をしている。そこを走る鉄道も、平野部を除けばその地形故にカーブや勾配が多く、普通の車両ではせっかく最高速度を上げてもカーブでは今までと同じ速度で走らざるを得ず、最高速度向上の効果はあまりないのが実状である。
そこでカーブをより高い速度で走行することが出来れば、所要時分短縮の効果が得られるが、そこで問題になるのが遠心力による乗り心地の悪化である。
通常カーブでは、列車が曲がりやすくするために外側のレールと内側のレールに高低差が設けられており、これを「カント」という。このカントはある一定の速度以下では効果を発揮し、速度を落とさずに安全にカーブが曲がれる(左図(1))。
しかしある程度以上の速度では、車体に超過遠心力がかかって車体が外側に膨らみ(傾き)、乗り心地を大きく阻害する(左図(2))。しかしカントが大きすぎれば、速度が低い場合には逆に車両が内側に転覆するおそれがあり、カントの大きさはその路線の実状に合わせて設定されている。
では、カーブでの速度を上げてなおかつ乗り心地をよくするためには、遠心力を利用して意図的に車体を傾け、超過遠心力を相殺してやればよいことになる(左図(3))。
一般的に振子車両は、その振子の効果を引き出すため(曲線での走行安定性を高めるため)に一般の車両より車体が低くなっており、また車体裾部の絞り込みが大きいのが特徴である。
以下に、通常の車両と振子車両の、曲線通過速度の違いを表にしてみた。
| 曲線半径 | 一般車 | 自然振子 | 制御付自然振子 |
| 200m | 50km/h | 65km/h | 70km/h |
| 250 | 60 | 75 | 80 |
| 300 | 65 | 80 | 85 |
| 400 | 75 | 95 | 100 |
| 500 | 85 | 105 | 110 |
| 600 | 90 | 110 | 120 |
| 700 | 95 | 115 | 125 |
| 800 | 100 | 120 | 130 |
| 1,000 | 105 | | | | |
| 1,200 | 110 | | | | |
| 1,400 | 115 | | | | |
| 1,600 | 120 | ↓ | ↓ |
半径300mの曲線は地方の幹線には結構多く存在するし、600m程度なら幹線系でもごろごろある。
例えば、線区(列車)の最高速度が120km/hで半径600mのカーブを通過する場合、一般の車両では通過速度が90キロに制限されるが、自然振子車なら110キロでOK、制御付振子車なら120キロ(つまり速度制限無し)で通過できるわけである。
ここで、多くの人が勘違いしているのだが、振子式というのは本来「カーブを高速で通過するための技術ではない」ことを知っていただきたい。
カーブを高速で通過しようとしても、遠心力の作用によって乗り心地が悪化するため、「遠心力の作用を相殺することでカーブでの乗り心地の向上を図る技術」である。
曲線の通過速度は、乗り心地によって決められており、乗り心地を測る数値として、遠心力の作用による横Gの大きさが使われる。この横Gの大きさが一定値以上にならないように曲線通過速度が設定されているわけである。
つまり曲線通過速度を上げるためには、この横Gを小さくしてやればいいわけで、それを振子の作用によって相殺する(横Gを小さくする)ことによって乗り心地を向上を図るのが、振子式の本来の目的であり、曲線通過速度の向上はそれによって得られる結果に過ぎない。
要するに振子式車両は他の車両に比べて、「同じ乗り心地で、より高速にカーブを通過できる」わけで、一般的にはこの「高速にカーブが通過できる」という点だけが振子式のメリットとして一人歩きし、それが振子式の目的であるかのように錯覚されているのである。
特に振子式車両は効果的な振子作用を得るため、通常の車両よりも車高を低くするなど、低重心化が図られており、その意味では別に振子が無くても通常の車両よりもより高速で安定してカーブを通過することができる。
そのような発想に基づき、1973年に中央本線特急「しなの」に登場したのが381系電車である。当時はまだ制御振子の技術が確立しておらず、車体の傾斜は遠心力の力のみを利用(自然振子)していた。
そのため、曲線に進入した際の急激な揺れと、曲線を出たあとの「揺れ戻し」の問題が残り、これを改善すべく制御付振子の開発が進められることになった。
2.制御付振子の仕組み
制御付振子車については、既に国鉄時代の1984年から85年にかけていくつか試験が行われていた。
当時紀勢本線特急「くろしお」に使用していた381系電車を使用して制御付の振子台車に改造し、湖西線で試験運転を実施。このときは高速試験がメインで、制御付振子は速度向上のための補助的システムとして組み込まれていた。
1984年6月23日から7月10日までのテストでは、381系は169km/hを記録し、翌1985年には台車の軽量化と振子制御の改良を行った上で再トライ、11月26日に179.5km/hという在来線最高速度記録を達成。
さて、「制御付」振子とは、文字通り振子の動作をコンピューターなどによって制御するモノで、簡単に言えばあらかじめ曲線が始まる手前から徐々に車体を傾斜させ、曲線が終わる時に徐々に車体の傾きを戻すもので、「制御付自然振子」と呼ばれる。
この日本方式の制御付自然振子は、車体の傾斜はあくまで遠心力を基本にして、システム自体はその車体傾斜の補助的役割をするモノであり、車体を曲線の反対向きに傾けるだけの力は無い。現在の日本国内の「制御付振子」は全てこの方式である。
これはフェイルセーフを考えたモノであり、万が一振子制御装置が誤動作を起こして、本来傾けなければならない方向と逆向きに車体を傾けてしまった場合でも、自然振子によって正しい方向に向け直すことが出来るようになっている。
また装置自体の小型化によりコストを抑えるという狙いもある。
これに対して欧州で採用されているシステムは「強制車体傾斜方式」と呼ばれ、先頭車両でカーブを検知すると、2両目以降の車両に対して車体傾斜の指令が出され、油圧シリンダやリンク機構を使用して車体を強制的に「ゆっくりと」傾けるタイプであり、複雑なプログラミングなどを必要としない代わりに、特に先頭車両では若干の振り遅れによる乗り心地の悪化に目をつぶる必要がある。
つまり、カーブをあらかじめ予測して車体を傾斜させる日本方式に対して、欧州方式はカーブを検知してから車体を傾斜させるという決定的な違いがあるわけである。
欧州に比べてコンピュータの技術が発達していた日本では、より良好な乗り心地が得られるため、この方式を採用している。また、欧州の高速列車は編成の前後が動力車(機関車)となっている列車が多く、先頭車両での若干の乗り心地の悪化が許容されていたという事情もある。
以下では日本方式の「制御付自然振子」について話を進める。
さてその動作原理だが、簡単に言うと、上図のように列車がATS地上子の上を通過すると、列車に搭載された車上子がそれを検知し、列車の現在位置を算出する。
そしてそれに基づいて、予めROM装置に記憶されている次の曲線までの位置を演算して割り出し、曲線が近づいてきたら緩和曲線に入る50m手前から振子指令装置(CC装置)が振子制御装置(TC装置)に指令を出し、それを受けてTC装置はχm手前から車体を傾斜させ始め、緩和曲線出口手前ymになると車体を戻し始めるわけである。
※「ATS」とは「自動列車停止装置 (Automatic Train Stop)」の略で、列車が赤信号を無視して通過すると警報を発したり自動的に非常ブレーキを掛けたりする安全装置で、JRでは全線に装備されている。その動作方法等の細部の違いによって、「ATS−S型」「ATS−P型」「ATS−SS型」「ATS−SP型」などいくつか種類ある。
位置情報の算出には、先に述べたようにATS地上子を基準にしているが、ATS車上子からのこの情報を基に、車輪の回転数から走行距離を演算し、曲線入口を検知している。この場合、累積誤差を極力少なくするため、ATS地上子を通過する毎に演算値をクリア(0に戻す)している。また、車輪が滑走(空転)する場合があるので、その誤差をなくすために複数の速度発電機を使用し、回転数の多い方の数値を優先するようになっている。
これら、曲線の大きさ・長さ・向き・カント量の情報は、その曲線番号(全ての曲線に各々番号が付与されている)とともに走行開始前に設定スイッチの操作によって予めCC装置からTC装置に電送され、TC装置にも記憶される。
走行中は、基準となるATS地上子を検知すると、CC装置は先に述べた方法で曲線入口手前50mの位置を演算し、編成の先頭車両から順次時間をずらして(どの程度ずらすかは、その時の列車の速度から演算される)各車に搭載されたTC装置に振子司令を伝送(曲線番号・車両番号)する。
各TC装置は、予めメモリーされている次の曲線のデータに、現在の列車の走行速度を加味した上で所定の制御指令を演算し、曲線手前χmに近づくと、台車に搭載された振子シリンダの制御装置に指令を出し、車体を傾斜させる。
その後円曲線出口ymの位置を算出し、今度は車体傾斜を引き戻す。
各台車に取り付けられた振子角度変位計からは、車体の傾斜角度の情報が約50ミリ秒(1ミリ秒は1秒の1/100)毎にTC装置にフィードバックされ、列車の現在速度の変化に合わせて傾斜角度が修正される仕組みになっている。
これら地上側の情報(曲線情報やATS地上子の位置情報)は、実際に試験走行を行って、そこから得られた実測値が入力されている。
地上設備はしばしば変更され(特にATS地上子の移設)、その度に実測値を測定し直してはデータを入力し直すという作業が必要になる。
ちなみにこの振子制御は、2000系気動車の場合は列車の速度が50km/h以上で尚かつ曲線半径が1200m以内の場合のみ作用するようになっており、それ以外(列車の速度が30キロ程度の場合など)では台車に取り付けられた振子抑止シリンダによって振子をロック(振子が動作しないように)し、不用意な車体の動揺で乗り心地が悪化するのを防止している。
余談だが、合成音声による自動放送装置(「間もなく○○に到着します」と女性の声で流れるやつ)や客室出入り口ドア上に表示されるLEDによる案内装置などにもこのATS地上子を利用した位置情報データが利用されている。
山間部を走行する土讃線の場合、次から次へと曲線が連続するようなところを90キロ以上もの高速で走行するために、現代のコンピューター技術をもってしても演算が追いつかず、CC装置が列車位置を見失ってしまう場合がままある。
その筋ではこれを「振子が飛ぶ」と言うが、私も実際に何度か経験があり、直線区間を走っているのに車体が傾いたまま。という場面に出くわしたこともあった。しかしこれも、プログラムの改良などによって最近ではほとんど無くなったようである。
と、電車であればここまでの話で済むのであるが、「気動車」にはまだクリアしなければならない問題がいくつかあり、それが、2000系以前に「振子気動車」が実用化に至らなかった最大の要因でもある。
3.「振子気動車」の課題
かつて、「気動車の振子はできない」というのが、鉄道界の常識であった。しかしながら常識というのは時代と共に変わるものであり、また変えていくべきものである。
初めてその常識を変えることにチャレンジしたJR四国とJR総研はどのような課題にぶつかったのか? それを以下に記す。

左図が、エンジンを2台搭載した気動車の一般的な動力伝達図である。見てもらえば解るが、その構成は自動車と同じである。
エンジンから変速機を通した出力が動力推進軸(ドライブシャフト)を介して減速機から車輪に回転力として伝わる。
ここで、エンジンが1台しかない場合、車体に取り付けられたエンジンの回転力の反力(「反トルク」という)によって振子作用が打ち消されてしまい、自然振子が動作しなくなってしまう。
そのためにエンジンを2台搭載し、それらの推進軸の回転方向を互いに逆向きにし、反トルク同士でその力を相殺してやることによって、これを解決している。
実際に、現存する振子気動車は、例外なく全車両がエンジンを2台搭載している。

次に、推進軸の問題がある。
左図のようにカーブにさしかかった場合、振子車両では大きく車体が内側に傾くため、車体に取り付けられたエンジンと、台車に付いている車輪との間を結んでいる推進軸には「ねじれ」る力が加わる。
ただねじれるだけならまだ良いのだが(良くないような気もするが(^_^;))、定格出力で300何十馬力、最高出力で400馬力(本当は回転力なので「トルク」とするべきだが、便宜上「馬力」とする)を超えようかという力を伝達している最中にねじれる力が加わってはたまったものではない。が「たまったものではない」では問題は解決しないのでこれもクリアしなければならない問題であった。

さらに鉄道車両の場合は左図のように曲線通過時に、台車は曲線に沿って曲がる(向きを変える)が、エンジンは車体に付いたままなので今度は「曲がる(「よじれる」とするべきか?)」力と「伸縮する」力が推進軸に対して加わる。
つまり、「ねじれ」て「曲が(よじれ)」って尚かつ「伸縮」し、その上大出力に耐えうる推進軸系統が必要だったわけである。これの開発・確認のため、1988年5月からJR総研に於いて急行形気動車(キハ58形)を改造しての試験が繰り返された。
なお、JR四国では1988年の9月頃から、翌89年3月ダイヤ改正での試作車投入に備えて、瀬戸大橋線・予讃線・土讃線に於いて実際に試験列車を運転して、地上データの実測を行っている。
実は、振子気動車「のようなもの」自体は過去に於いて存在したことがあった。下のイラストの車両がそれで、「キハ391系」と呼ばれていた。
この車両は1972年に製造されたが、当時は振子気動車用の推進軸を開発する技術が無く、前後の2両はエンジンを持たない付随車(トレーラー)でこの車両の台車のみが振子式となっており、中央の車両には航空機用のガスタービンエンジンが駆動用エンジンとして搭載されていたが、その台車は振子構造になっておらず、その点では厳密な意味での振子式車両ではなかった。
この車両は中央本線や伯備線などで試運転が行われたが、騒音の大きいガスタービンエンジンを搭載していたことに加えて燃費が悪かったため、折からの石油ショックによって、結局日の目を見ずに終わった。
こうして開発された「世界初の振子式気動車」2000系は89年3月改正で試作車が試運転を兼ねた営業運転を開始、90年11月のダイヤ改正で量産車が登場。
当時のダイヤ改正のポスターには「四国のアクセスタイムを変えます」というキャッチコピーとともに、それまで約3時間かかっていた岡山〜松山・高知間が、岡山〜松山間で最速2時間29分、岡山〜高知間で同2時間18分に短縮される事実が誇らしげに記載されていた。
率にして20〜30%という驚異的なスピードアップであり、特に岡山〜高知間2時間18分などというのは、国鉄時代から考えれば、夢のような速さであった。
実際私もその時のダイヤ改正の時刻表を見て、「本当にそんなスピードで走れるのか?」と思ったものである(^^;
4.8000系電車の新技術
JR四国では、2000系気動車をベースにした振子式特急電車8000系を開発。ここでは、レールブレーキとパンタグラフ制御装置について触れる。
<レールブレーキ>
日本のJR在来線(新幹線以外の既存の路線)を走る列車の最高速度は120〜130km/h止まりである。車両性能から見ればもっと高い速度は出せるのに何故この速度で止められているのか?
その理由は、信号や踏切などの保安設備(以下「地上設備」と言う)と関係している。通常在来線では列車が非常ブレーキをかけてから停止するまでの距離は600m以内とされており、在来線の地上設備はこれを基準に設置・設定されている。
そのため、極端な話だが、時速180キロ以上出せるような高性能車両でも、非常ブレーキをかけて600m以内の距離で停止できる速度が例えば時速90キロなら、在来線上ではその速度までしか出すことが許されないのである。
このような、その車両に対して規定上出すことが許されている最高速度のことを「許容最高速度」と言う。鉄道車両の「最高速度」と言えば一般的にはこの「許容最高速度」のことを指している。
鉄道ではこの他に、各路線毎に各々の路線の路盤の強弱や地上設備の整備状況などによって線区ごと・区間ごとに最高速度が決められており、自動車でいう「道路の制限速度」に相当するモノがあるが、ここでは割愛する。
最近の車両(特に特急用車両)はフラット防止装置(いわゆるアンチロックブレーキ)を装備しているものが多く、130km/hでの走行が可能になっている。しかしそれ以上の速度では通常のブレーキ(車輪とレールの摩擦力によるブレーキなので一般に粘着ブレーキという)では規定内の距離で停止することは難しいとされている。
だが、地上設備の改良には莫大な資金が必要で、最高速度向上のためには、車両側の改良に頼るかいっそのこと線路を引き直すしか方法がないのが現状である。
そこで1992年に登場した8000系試作車に試験的に搭載されたのがレールブレーキである。
これは、台車に電磁石を取り付け、非常の場合はこれをレールに吸着させてブレーキ力とするモノで、92年7月にJR四国が予讃線で行った試験では、150km/hの速度からでも600m以内で停止できることが確認されている。
このブレーキ、残念ながら量産車では採用されなかったが、今後の実用化に期待できるかも知れない。
<パンタグラフ制御装置>
パンタグラフとは集電装置のことで、特に架線から電気を取り込んで動力とする電気車には基本的に不可欠のモノであり、車体の屋根上に取り付けられた菱形又はアーム形、及びそれに類する形状の物である。
上記で既に述べたように、振子車両はカーブで車体を傾けることによって、曲線通過時の乗り心地を改善しスピードアップを図ろうというモノであるが、ここで問題となってくるのは大きく傾く車体に取り付けられているパンタグラフと架線との位置関係である。
パンタグラフは車体の動揺に合わせて大きく左右に移動するが、架線の位置は変わらないため、パンタグラフと架線が離反する可能性が無いとも言い切れないし、離反はしなくても集電不良に陥る可能性はあるわけである。
そこでパンタグラフを車体の傾斜に関わりなく常に一定の位置に保持するために同装置が開発された。
架線の張架方法を振子車用とすることも可能であり、中央本線 名古屋〜塩尻間など、当初から振子車両が走ることを前提として電化された区間ではその方法が採られている。
そのため、この区間を走行する特急「しなの」に使用される383系電車は、パンタグラフ制御装置を搭載していない。
四国の場合、既存の電化区間を走行することが多く、また新規電化区間に於いてもトンネルの断面が小さい為に架線張架時の自由度が低いことなどから、採用となったものである。

8000系に採用されたパンタグラフ制御装置は、パンタグラフの載っている基台を、屋根上を円弧状に左右に移動できるようにしたレールの上に載せ、その基台をワイヤーロープによって台車に固定する仕掛けになっている。
ワイヤーロープは断線に備えて2本とし、それでも2本とも断線してしまった場合は、フェイルセーフが機能してパンタグラフが強制的に折り畳まれ、同時に自動的に非常ブレーキがかかって列車が止まるようになっている。
8000系量産車がデビューしてしばらくこのワイヤーロープの断線が何件か発生したため、装置に若干の改良が加えられているようである。
また、8000系以降に登場した振子式電車(E351系、881系等)では、ワイヤーロープの断線を避けるために台車からアームを立ち上げて基台を固定するタイプを採用している。
このタイプだと断線の心配は無くなるが、台車とパンタグラフを繋ぐアームを通すためのスペースが車体側に必要となり、その分客室面積が削られるほか、重量も重くなるというデメリットがあり、要はどちらも一長一短である。
5.振子車の現状
ここで言う「振子車」とは「制御付自然振子車」を指すこととし、国鉄時代に登場した「自然振子車」381系については除外していることをお断りしておく。
1989年3月に登場したJR四国2000系の(大)成功を見てとると、他のJR各社などもこぞって制御付振子車の開発に乗り出し、現在JR旅客全6社と第三セクター会社2社に合わせて11系列(気動車5系列/電車6系列)が在籍している。
1989年 3月 JR四国 2000系気動車TSE 季節列車で営業運転開始 「南風」「しまんと」
1990年11月 JR四国 2000系気動車量産車登場 本格営業運転開始 「南風」「しおかぜ」
1992年 3月 JR四国 8000系電車試作車登場 季節列車で営業運転開始 「しおかぜ」「いしづち」
1993年 3月 JR四国 8000系電車量産車登場 本格営業運転開始 「しおかぜ」「いしづち」
この時点で、予讃線・土讃線の定期特急列車は全て振子車に。
1994年 3月 JR北海道 キハ281系気動車 営業運転開始 「スーパー北斗」
12月 JR東海 383系電車先行量産車登場 季節列車で試験を兼ねた営業運転開始 「しなの」
智頭急行鉄道 HOT7000系 営業運転開始 「スーパーはくと」
JR東日本 E351系電車 営業運転開始 「スーパーあずさ」
1995年 3月 JR九州 883系電車 営業運転開始 「ソニックにちりん」
11月 JR北海道 キハ283系気動車試作車登場 各種試験開始
1996年 7月 JR西日本 283系電車先行量産車登場 試験を兼ねた営業運転開始 「くろしおオーシャンアロー」
12月 JR東海 383系電車 本格営業運転開始 「ワイドビューしなの」
1997年 3月 JR北海道 キハ283系量産車営業運転開始 「スーパーおおぞら」
JR西日本 283系量産車営業運転開始 「スーパーくろしお オーシャンロー」
2000年 3月 JR九州 885系登場
2001年 7月 JR西日本 キハ187系登場 「スーパーおき」「スーパーくにびき」
技術的な動向としては、既述のようにJR四国8000系ではワイヤーロープによるパンタグラフ制御装置が実用化されたほか、同系の試作車ではレールブレーキが試用され、コロ式に代わるベアリングガイド式の振子装置も試みられたが、これらは試験的要素が強く、量産車では採用されなかった。
JR北海道キハ281系では試作車ではコロ式だったのが量産車ではベアリングガイド式になっている。これは冬季の着雪による振子の動作不良を懸念してのことである。
JR東海383系では曲線に沿って台車が折れ曲がる「操舵台車」が採用された。試験結果が良好だったため、量産車にも採用された。
智頭急行HOT7000系は特に目新しい新技術は採用せず、運転台の機器配置までJR四国2000系を模倣しており、手堅くまとめている。
JR東日本E351系では、JR四国8000系とは異なるパンタグラフ支持方法を採用している。これは、8000系では運転開始当初、ワイヤーロープが断線して走行不能になる(ワイヤーが切れると、自動的にパンタグラフが折り畳まれるため)トラブルが発生したためにそれを防ぐのが目的のようだが、重量が重くなるのが難点である。
ただこの車両は振子の動作不良が多発しており、「欠陥車両」との風評も聞かれる。
JR九州883系は、技術的には手堅くまとめ、内外装デザインに凝った車両である(個人的にはあの内装は嫌いだ)。パンタグラフ支持装置は、JR東日本E351系とほぼ同じものが採用された。
JR北海道キハ283系は、キハ281系をベースにして、JR東海383系と同じ操舵台車を組み込んでおり、約1年間の試験の後、1997年3月のダイヤ改正でデビューした。
また同車は直結4段式の液体変速機が搭載された(それまでは直結2段)。
JR旅客会社の中では最後となったJR西日本では、96年7月31日から283系「オーシャンアロー」を紀勢本線に投入して営業運転を開始。当初、車両数の関係から点検日は従来型の車両を使用していたが、97年のダイヤ改正から本格的な営業運転に入った。
2000年3月改正で、JR九州に2つ目の振子車として885系が「かもめ」として登場した。基本構造は883系を踏襲している。
2001年7月改正では、JR西日本キハ187系が登場。近代化から完全に取り残されていた、山陰線西部の改善がスタートした。
これら全系列の比較表なども作成しており、掲載も可能であるが、ここでは2000系と8000系の紹介が目的なので他系列についてはそのメカニズムの解説も含めて、詳細は割愛させていただく。
なお、JR北海道のキハ261系やキハ201系も車体傾斜システムを採用しているが、あれは「振子」などと呼べるものではなく、台車にもコロやベアリングによる傾斜装置を搭載していないことから、私的には単なるアクティブサスペンションだと思うのでここでは割愛している。
昔々バブル絶頂の頃に、三菱自動車がディアマンテやギャランに、これと同じようなカーブで車体の傾斜を制御するという「オモチャ」を採用して一時話題になったが、その後完全に忘れ去られているようだ(当然か(^^; )。ちなみに、メーカー側はやはり「アクティブサスペンション」として宣伝していたが。
2003年10月1日現在の各社の制御付振子車の保有状況は以下の通り。
| JR北海道 | JR東日本 | JR東海 | JR西日本 | JR四国 | JR九州 | 智頭急行 |
土佐
くろしお
鉄道 | 合 計 |
| キハ187系 | − | − | − | 26 | − | − | − | − | 26 |
| キハ281系 | 27 | − | − | − | − | − | − | − | 27 |
| キハ283系 | 43 | − | − | − | − | − | − | − | 43 |
| 2000系 | − | − | − | − | 76 | − | − | 4 | 80 |
| HOT7000系 | − | − | − | − | − | − | 26 | − | 26 |
| E351系 | − | 60 | − | − | − | − | − | − | 60 |
| 283系 | − | − | − | 18 | − | − | − | − | 18 |
| 383系 | − | − | 76 | − | − | − | − | − | 76 |
| 883系 | − | − | − | − | − | 50 | − | − | 50 |
| 885系 | − | − | − | − | − | 62 | − | − | 62 |
| 8000系 | − | − | − | − | 48 | − | − | − | 48 |
| 合計 | 70 | 60 | 76 | 44 | 124 | 112 | 26 | 4 | 516 |
本州の3社よりも、北海道・四国・九州のいわゆる三島会社が制御付振子車の導入に熱心である。
曲線半径などの線路条件が本州の幹線に比べて厳しいという事情も一部にはあるが、他の交通機関との競争に伴うスピードアップに対して、本州3社よりも強い危機感を抱いているということなのであろう。
事実、現在在籍する制御付振子車のうちの2/3を、三島会社が保有している。
中でも保有数がもっとも多いのはJR四国で、全制御付振子車の約1/4を占め、また同社在籍車両のうちの約3割が振子車である。また、系列別でも四国の2000系が最多である。
JR西日本はどうもいまいち乗り気でないようで、2003年度のキハ187系増備も地元自治体に100%資金を供出させている。
JR東日本もE351系の失敗で懲りたのか、その後は音沙汰無しである。
参考文献
鉄道ジャーナル社刊「鉄道ジャーナル」
交友社刊「鉄道ファン」
電気車研究会刊「鉄道ピクトリアル」